宮野 祐/Miyano Tasuku

個展「逆さまの牛」

逆さまの絵と聞いて多くの人はゲオルグ・バゼリッツの逆さまの人物やピート・モンドリアンの作品が70年以上にわたって逆さに展示されていたことなどを思い起こすかもしれない。しかし今回の展示の「逆さま」はそうした絵画史の文脈とは少し離れた意味合いを持っている。
 山形県のほぼ中央に位置する出羽三山(湯殿山、月山、羽黒山に代表される山々)では火防神牛札という牛の絵のお札が配布されている。この札は名前の通り火伏せのお札で、台所などに貼ることで火事を防ぐご利益があると言われている。山形ではこのお札を逆さまにして貼る。なぜこの札を逆さまに貼るのかにはさまざまな理由があるが、主には牛が背中で火をすり消しているように見えるためと説明されることが多い。絵の中の牛が火事をすり消してくれると願いながら、人々は牛を逆さまにし続けてきた。
 この牛を逆さまにする儀式を本展示ではより大きな物語へ接続させようと試みている。山形県酒田市の消防署には大きな牛札を印刷した看板が逆さまに設置されている。大きな牛札を設置することで各家庭の火防から街の火防へとより大きな祈りを作っている。同じように本展でもより大きな牛を逆さまに展示することで山形特有の儀式からより大きく日本や世界への祈りとして拡張した。私たちの身の回りにはもちろん良い火もあるが、中には人を焼く火、街を焼く火だってある。それは災害や戦争かもしれない。そうした大きな悪い火をその背中ですり消してくれと願いを込めて牛を逆さまにする。

2023年8月26日(土)-9月3日(日)
15:00-19:00

会場:ストロベリー・スーパーソニック
高円寺南3-60-10